ずいぶん間が空いてしまいましたが前回の記事では、 Nreal 社が開催した AR/MR コンテンツのグローバルアワード ARJAM に応募し、落選したと思ったら入賞した話を書きました。これまでの記事は以下です。
- Nreal の AR Jam アワードに応募するも Milestone 1 通らなかった報告 - ARTICLES
- 落選したと思っていた Nreal の ARJAM アワード 3 位を受賞した話 (0) 受賞報告編 - ARTICLES
改めて自分でもARJAMに参加した1か月間について書いてみます。 まずは Milestone 1 の話。Milestone 1 の締切は、2022年7月7日(木)でした。開始が6月27日なので、約10日間で Milestone 1 に必要なものを用意しないといけません。
Milestone 1 で必要なものは以下でした。
- プロジェクトのアイデア
- プロジェクトについての説明 約25,000文字
- コンセプトアート jpg/jpeg/png/gif で9点
実は、6月27日の数日前くらいには ARJAM のことを知っていたので、当然申し込む前提で企画を考えました。
ただ、その当時は dev.to に書いていたチュートリアル程度の実装技術しか持ち合わせていなかったため(いま書いている時点でもさしたる向上はしていないのですが、当時はアプリを作り切ったこともなかったため今以上に技術力はありませんでした)、短期間で完了できるものというと非常に限られたものになってしまいます。
あんなことやこんなこともできない
AR/MR アプリの企画というと、あんなことやこんなことを実現したいなんていろいろ夢想できるのですが、正直言ってこの短期間に実装できる見込みはゼロなものばかりでした。
ということで、提出物から察するにどんなプロジェクトを応募するかの企画とその内容をまとめるのが Milestone 1 でやるべきことといえます。企画にあたってはそもそもこのアワードの審査基準を理解する必要がありますが、以下のような感じとしてサイトには掲載されておりました(意訳)
- カテゴリ要件
- 応募されたプロジェクトが、各カテゴリの基準要件を満たしているかどうかを評価
- 創造性・独創性
- ARアプリにおけるギャップの特定を通じた創造性・独創性の高いアイデアとピッチ
- 技術的な実行力
- NRSDKを使用し、熟考された技術的な実行、質の高いユーザー体験、拡張現実のコンセプトの取り込みを実証している
今回ものすごく意識したのは最終日にどういう形であれ一通り完成をさせて apk をアップロードするということでした。どんなにすごいことを計画していても完成できなかったら意味がないと思ったためです。ということで自分の実力で確実に作り上げることが可能なものというのがもっとも企画で重要なポイントになります。
はじめにやったこと
まず決めようと思ったのはどんなカテゴリにするかということでした。今回はメインカテゴリが At-Home Fitness、Art、Games、Screen 2.0、Port の5つが用意されており、更にボーナスカテゴリとして Social、NFT、Sdudent というのがあります。ボーナスカテゴリはそれ単体で応募することはできず、メインカテゴリのいずれかを選択した上で合わせて選ぶかたちになります。
なので、余裕があればメインカテゴリを選び、ちょっとトレンドなNFTあたりを組み合わせたアプリを作れば良さそうだと思いましたが、なんせ完パケまでに1か月しか時間がありません。ここは メインカテゴリの一点突破 しかないと考えました。
さて、じゃあどのカテゴリを選ぶかという話ですが、まず思ったのは Game はやめておこうということでした。これはゲーム性がないものを作ろうということではありません。ゲーム自体を売りにするようなものを作らないということです。例えば何かの目的達成のためのアプリでゲーム性があるとかはいいと思っています。
僕の仕事はゲームを作ることではなく、誰かが行っているビジネスをサポートするようなツールやコンテンツを作ることです。これはずっとやってきているのでXR時代が来ても今後もこの方針でいくことは間違いはないと思っています。
仮に今回面白いゲームを作れてゲーム屋さんとしてデビューできたとして、その先どういう未来が待っているのかということに思いをはせたときに、それはたぶん僕じゃない人のほうが活躍できるだろうなと考えました。
仮にお客さんがいるような形だったとしても成り立つアプリのほうが、アワードを通らない場合でもデモアプリとして意味があるものになるのと考えました。尻込みしすぎですがまあよしとします。とにかくここまで思い当たったとき、もうこのアワードは勝っても負けても何らかの財産ができるからよしと決意が固まりました。
5つの提出カテゴリについて考えたとき、 Game の他に Art は前述の方向性で考えたときに除外できるなと考えました。また Port についても既に何らかのアプリを持っているわけではないので除外対象となりました。従って At-Home Fitness か Screen 2.0 のいずれかとなりました。
次の時代のスクリーンについて考えるのも面白そう
Screen 2.0 というカテゴリは、ビジネス向けのアプリを考えた場合に大変応用性があるカテゴリといえます。仮想空間で何らかの作業をするようなアプリを作るとき、それらの関連情報をどう表示するかというのは大きな課題となります。従って Screen 2.0 カテゴリに挑戦するのは大いに意義がありますし、今から独自に挑戦してもいいと思っています。
しかしながら MR Tutorial を書いてわかっていたのは、情報の表示をいい感じに空間に表示させるのは更なる研究が必要そうということでした。もちろん、空中に文字を出すとかボタンを表示するとか画像を表示するとかだけなら既に出来ています。それらを組み合わせて出来るもので Screen 2.0 に合ったものを提供するのは難しそうだと考えました。
ということで自分の中の必然性として At-Home Fitness になったわけですが、これはこれで新しい挑戦となりました。
じゃあ何をつくるんですか?
ここまでは割とすぐたどり着いたのですが、問題はここからでした。考えあぐねた結果、結局あまりいい案も思いつかず、妻にも相談してどんなのだったら「作れそう」かつ「面白そう」かということを出発点にいろいろブレストをすることにしました。その中で突破口となったのは 「ボルダリングみたいのどう?」 という何気ない言葉でした。
ボルダリングは今はやりませんが、僕の体重がもっと軽かった頃はちょっとやったことがありました。あのスポーツは傍から見ると地味な感じですが、やっている本人にとってはなかなか手に汗握るスポーツなのです。壁につけられた数字によって難易度が変わり、同じ壁でも遊び方がまるで変わります。
もちろん壁をそのまま再現するわけにはいかないので企画を工夫する必要があります。それでもボルダリングのような2本の手をつかって何か目的に向かって進むというのは出発点としてよさそうだというのが直感的にわかりました。ただ、 Nreal Light はフットトラッキングなんてものはなく、ハンドトラッキングしかありませんから手だけで何かするということになります。
手だけで何かに向かって進んでいくスポーツというと、小学校のとき校庭で遊んだ「うんてい棒」が頭に浮かびました。
うんてい棒にたどりつく
「うんてい棒」のように右手の次は左手という感じで次々とタッチポイントを手で触っていくようなのであれば作れそうです。話だけ聞くとシンプルすぎるように思うかもしれませんが実際に作る段階になっていろいろ技術的な問題が発生したので単純すぎるくらいがいいかもしれません。
もう少し面白いポイントをつけられて、 Nreal Light ならではなアプローチを見つけられれば企画は完成となりそうです。
ただ、この時点でもう7月を過ぎており、最初のマイルストーン締め切りである7月7日まであとわずかとなっていました。最初のマイルストーンでは、アイデアの説明とコンセプトアートの提出が求められます。ただ、根っこの部分が出来たので峠を越えた感はありました。
Nreal Light ならではのアプローチを埋め込む
続いてやらないといけないのは、面白いポイントを見つけるのと Nreal Light ならではのアプローチを埋め込むことです。今回はコロナ禍のなか作るアプリとしても「At-Home Fitness」部門はいいと思いました。家にいたときはフィットネスゲームをやったり、筋トレをやったりいろいろしたのですが、なかなかうまく続かず自分なりに何かできないものかと思っていたのでした。
Nreal Light は軽くて装着しやすいのですが欠点もあって、けっこう視野角が狭いのです。つまりXR映像を見える範囲が狭く、範囲外は映像が途切れてしまうのです。
確かにクオリティの高い体験を作ろうと思ったら視野角の問題はネックになりますが、 見えない部分があることでゲーム性が高まるように設計をすればむしろプラス になります。そこで思いついたのは、次のタッチポイントに触る際には前のタッチポイントに触れていなければならず、しかも視界に両方のタッチポイントが入っていないといけないというルールです。
視界は狭いため前後のタッチポイントが視界におさまるようにするためには、場合によっては大変窮屈な姿勢をしないといけません。これはなかなか体を動かすゲームになりそうだし、今の Nreal Light だからこそむしろ面白いというアプローチになりました。
つまりはこんな感じの内容になります。
- 数字が空中に浮かんでいる
- 1から順に手で触らないといけない
- 次の数字を触るためには、前の数字に触り続けないといけない
- 前の数字と次の数字を視界の中に入る位置に移動しないといけない
- 前の数字から手が離れるとゲームオーバー
- 最後の数字を触るとクリア
- ゲームクリアすると次の面
ただ、この企画はちょっとアワード向けとしては心配な部分もありました。 Nreal Light の得意なところではなく苦手なところをゲーム性に組み込んでいるからです。とはいえ、これ以上いいアイデアは思いつきそうもないので勢いで日本語の文章を書き、英訳して準備しました。
残るはコンセプトアートです。
ということで次回に続きます。次回はコンセプトアートとロゴの作成です。
※ もし Nreal デバイス関連で話聞いてみたいって人や、開発で困っているよって方は気軽にご連絡ください
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原 一浩
カンソクインダストリーズ代表 / グレーティブ合同会社代表
1998年に独立し、同年、ウェブデザイン専門のメールメディア DesignWedgeの発行を開始。Webデザイン業の傍ら、海外のWebデザインに関する情報発信を行う。
雑誌への寄稿多数。主な著書に『はじめてのフロントエンド開発』『プロセスオブウェブデザイン』、『Play framework徹底入門』、『ウェブデザインコーディネートカタログ』など。自社製のWebデザインのクロール&キャプチャシステムvaqumをベースに、様々なリサーチを行っている。Web 検定プロジェクトメンバー。