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アプリでなくて機能が売られる時代になるかもしれない

2019-08-02

Apple の iPadOS プレビューのサイトで見られる機能に「ショートカット」というものがあります。

サイト上では目立たない感じで書かれていますが、個人的にはグッときているため、ちょっと関連した話を書いてみます。あくまで僕がそう思ったくらいなので、大幅に外れることも考えられます。実は iPadOS が発表されたときから、これは一体どういう展開になるのだろうと考えてきました。

機能 (関数) が売られる世界

今、デジタルプロダクトが販売される単位は、アプリという単位が通常で、それに加えてアドオン的な感じで追加機能が販売ということが一般的な形態なのだと思います。もちろん、近年はサブスクリプションやマーケットプレイスのようないくつかの販売形態があることも認識しています。

さて、iPadOS のサイトでもみられるショートカットに話を戻すと、このショートカットは、何らかの単一の機能が一つの単位で、これを組み合わせて使ったりすることができるようです。ホーム画面の左側にも配置できるため、ユーザーが目にする機会は多くなりそうです。

これによく似た概念として Photoshop のアクションがあります。

アクションも Photoshop 上の操作を自動化して、一つの機能を構成します。わかりやすいのは、一発でインスタグラム風になるアクションとかでしょうか。

iPadOS はともかく、こういうショートカットがエンドユーザーの手に触れる機会は今まであまりなかったのではないでしょうか。もしくはあったとしても一般の人には難しそうで、あまり流行らなかったかです。

例えば、アプリは UI や様々な機能や概念、世界観などがワンパッケージになった単位です。その中には当然使わない機能も多く含んでいることでしょう。「実はこのアプリのこの機能だけが欲しかった」なんてこともあるかもしれません。

機能 (関数) を選ぶというのは、実は既に iPad などで使える「共有」機能で実現されています。そういう雰囲気を醸し出さないようにしていますが「対象」を引数として「何かの機能を実行する」という仕組みとなっています。

僕自身、スマートフォンや iPad を使っていくうちに、「アプリを開いて何かする」のではなく「何かに対して機能を実行する」ほうが感覚的にフィットしてくるように変わってきました。こういうユーザーの経験の土壌があった上で、はじめて機能の販売が成り立つ気がします。自分が「何かをしたい」ときに「何か」は持っていることが多いので「どうするか」だけが欲しいということを実現するには「何か」を「どうできるのか」については知っておく必要があります。別の視点から考えると、音声 UI を考えた時も「何を」「どうしたい」というシンプルな命令方法が好まれるのではないでしょうか。

また、機能は機能と機能を組み合わせて新しい機能を生み出すということも積極的に行われていきます。これまでアプリとアプリは API を通じて連携してきました。でも機能同士となると、違う結びつき構成になりそうです。このへんのニュアンスは、関数型プログラミングでも重要な概念であるコンポーザビリティ近いものがあります。アプリとは何だったのか、何をもってアプリというのかを考え直すいいきっかけになっています。

このショートカット、今までと違うプレイヤーによる新しいスターを生み出す気がしています。興味深く成り行きを見守っていこうと思います。


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    原 一浩 の顔写真

    (はら) 一浩(かずひろ)

    カンソクインダストリーズ代表 / グレーティブ合同会社代表

    1998年に独立し、同年、ウェブデザイン専門のメールメディア DesignWedgeの発行を開始。Webデザイン業の傍ら、海外のWebデザインに関する情報発信を行う。
    雑誌への寄稿多数。主な著書に『はじめてのフロントエンド開発』『プロセスオブウェブデザイン』、『Play framework徹底入門』、『ウェブデザインコーディネートカタログ』など。自社製のWebデザインのクロール&キャプチャシステムvaqumをベースに、様々なリサーチを行っている。Web 検定プロジェクトメンバー

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