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もしも、住所がエイリアス化できたら

2019-07-30

突然ですが、今度引っ越すことになりました。といっても、事務所のほうでなくて、住まいのほうです。

今の住所には、かれこれ 6年くらい住んでいまして、これは人生における賃貸暮らしの最長記録です。ちなみにその前は、社会人になって以降最初の引っ越しを除くと契約更新のたびに引っ越していました。

ではどこに引っ越すのかというと、今の家から 200m くらいのところです。

200km じゃなくて 200m です。

住所で「なんとか町なん町目」みたいな表記がありますけど、その「なん丁目」の部分すら変わりません。

が、しかし、こんな近所の住所変更でも、行政関係の住所変更やら各種会員・口座・会社関係の変更が必要となります。これはまったくもってばかばかしい。

Linux のシェル (通称 : 黒い画面) では、エイリアス機能というのがあります。コマンドのショートカット的なものが作れる機能です。そういえば macOS にもフォルダのエイリアスとか作れますね。この機能が便利なのは、実際の内容を隠蔽して、別名をつけられるところにあります。例えば my_folder というフォルダがあるとします。このフォルダのエイリアスを作成し、そのエイリアスをひらけば my_folder を開くことができます。この my_folder をどこか違う場所に移動しても、エイリアスを開くと移動した my_folder にアクセスすることができるのです。

こういう機能がリアルな住所にあると嬉しい。きっと幾度となく議論されてきたような話ではあるのでしょうが。

例えば、引っ越しをした場合は、住民登録をしている窓口に行って、実際の住所を変更するという作業を行います。もし住所のエイリアス化がされていたら、各種口座や会員情報などはエイリアスを登録しておけば良いことになるので、変更の手間がない。

仮に、世の中の流れが変わって、住所のエイリアス化がされたとします。すると、各種会員登録とか登記とかはエイリアス化された住所だけが渡されることになります。利用者には嬉しいですが、サービス側はあまり嬉しくありません。というのも住まいによってセグメントを行い、マーケティングに役立てていることがあるからです。

ということで、おそらく、郵送用のエイリアスと実住所の2つを書く必要があるサービスが出てくるでしょう。エイリアスから実住所を割り出す行政 API なんてのも出てくるかもしれません。加えて、エイリアスの運用がうまくいかず、やはり実住所の記載をお願いしますなんてことになるかもしれません。運用がうまくいかなかった決定的な事故として人命に関わるようなものが発生し、それをきっかけに見直しがはかられたり。

ここで思い出されるのが住基ネットです。住民基本台帳ネットワークシステムが正式名称なこのシステムは、市町村の枠を超えて住民基本台帳に関する事務の処理が行えるとサイトにはあります。これがもっと発達したら住所エイリアス的なことが実現できる社会になったのでしょうか。

他にもこういう系の制度で思い当たるのが、みなさまご存知のマイナンバー制度です。マイナンバーはあまり人に教えないというのが世の中の流れですが、逆に住所エイリアスの機能がついていたら、マイナンバー以外は教えないという未来もあったのかもしれません。素人の発想なのは承知ですが…。

ところがところが、世の中の流れは全く逆で、むしろ住所が変わるとマイナンバーカードやマイナンバー通知カードの住所変更も必要なのでした。

なんという煩雑な世の中なのでしょう。


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    原 一浩 の顔写真

    (はら) 一浩(かずひろ)

    カンソクインダストリーズ代表 / グレーティブ合同会社代表

    1998年に独立し、同年、ウェブデザイン専門のメールメディア DesignWedgeの発行を開始。Webデザイン業の傍ら、海外のWebデザインに関する情報発信を行う。
    雑誌への寄稿多数。主な著書に『はじめてのフロントエンド開発』『プロセスオブウェブデザイン』、『Play framework徹底入門』、『ウェブデザインコーディネートカタログ』など。自社製のWebデザインのクロール&キャプチャシステムvaqumをベースに、様々なリサーチを行っている。Web 検定プロジェクトメンバー

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