ARTICLES

「デザインの (居) 場所」展にいってきた

2019-06-08

あいにくの雨。関東も梅雨入りするらしい。
そんな日に東京国立近代美術館工芸館で行われている「デザインの (居) 場所」展に行ってきました。
フリーランスなんて稼業をしていると、ぽっかりと仕事と仕事の合間の時間が発生したりするのです。

会場近くの堀の写真

美術館の企画展にはいくつかのタイプがあると思っていて。
一つはアーティスト一人に焦点を当て、その人の人生を時系列で見ていくタイプ。もしくは、人生全体ではなくある一時代を追うというスタイル。

また、同一の美術カテゴリの人数人にフィーチャーしたタイプの企画展もあります。美術に関する運動を取り上げるときはこのタイプの企画展になりますね。

大きめの美術館になると、収蔵作品から選んで展開する企画展も開催されます。今回の「デザインの (居) 場所」はそんな企画展でした。

いずれの場合も、作品それ自体も大事なのはもちろんですが、企画と選者によるガイドの出来も満足度に大きく影響を与えます。今回のような複数の視点からそれほど関連すると思えないような作品群を組み合わせたような展示では特に。企画と選者による光の当て方が際立っていた展示だったと思います。

公式の案内にはこう書かれています。

東京国立近代美術館のコレクションにデザイン作品があることは、ご存知ですか?

1988年にインダストリアルデザイナーの先駆者と呼ばれるクリストファー・ドレッサーやアール・デコ様式の家具デザインで知られるピエール・シャローなどの作品が収蔵され、以後少しずつその数を増やしてきました。現在は、工業デザイン192点、グラフィックデザイン776点を収蔵しています。本展では、その中から選りすぐりのデザイン作品と、工芸作品を合わせた約120点を通して、デザインの居場所はどこ?という問いに対する答えを国境、領域、時間という3つの視点から考えていきます。デザインという言葉が我々の生活に定着し、様々な場面で聞かれるようになった今日ではありますが、その定義や意味合いは、状況や場所、人によって変化します。そんな、つかみどころのないデザインの存在について、改めて考える機会になれば幸いです。

— デザインの (居) 場所

この名前。どういうことか理解するのが難しい。すごく難しいテーマだと思います。デザインという言葉に限らず、そもそも短い言葉というのは把握が難しいのです。加えて、カタカナのまま日本語として定着した言葉は余計に定義が難しいですね。デザインというものが何かということ自体が難しく、その難しいものの居場所となるとなおさらです。自分の居場所だってよくわからなくなることがあるのです。

看板

展示内容は、所蔵作品をデザインの居場所というテーマに沿って構築したというものになります。作品は全部で 120 点。有名な作品も展示されています。19 のテーマでコーナーが分かれていますが、それ以外にも展示はされていないけど多数のコンテキストが存在するように感じました。例えば世界全体で言うと、個々の島が展示されていて、それ以外にも広大な海があるという感じです。そのため、きちんと自分の中で消化しようと思うと、かなりの補完が必要な展覧会ではないだろうかというのが感想でした。

展示は 19 世紀のデザイナー、ドレッサーの作品から始まります。概ね時系列に沿って作品は並ぶものの、今回の企画は「国境」「領域」という視点でも展開されるため、見ていくとコンテキストが急に変化するし、戸惑うかもしれません。そんなちょっと戸惑う部分も含めてお楽しみなのでしょう。会場では新聞のような体裁のガイドが配布されるので、このテキストを眺めつつ見て回ることになります。

「デザイン」と一口に言っても、時代や状況の要請に応じて「デザインされたもの」として落とし込まれていったものや、試行錯誤の結果として「デザインされたもの」になった作品など、当時の時代背景なども含めて考えるとより楽しめるでしょう。展示されている作品は氷山の一角であり、主役は当時生きていた人々なのかなというのが僕の感想です。

もう一つ感じたこと。当時のデザイナーは、様々な信念のもとにデザインを突き詰めていったのだと思いますが、それでもその時代における到達点というものがあるなというのを強く意識させられました。僕らは追求を続けることで、すごいイノベーションに到達できそうではないかとつい思ってしまいますが、ある時代における人々が到達できる場所というのはそれほど遠い場所ではないのだと思いました。それは決してネガティブな意味ではなく、遠くばかりを眺めず、今この場所をしっかりと生きるということを強く認識させられた展示だったと思っています。


ARTICLES


    AUTHOR

    原 一浩 の顔写真

    (はら) 一浩(かずひろ)

    カンソクインダストリーズ代表 / グレーティブ合同会社代表

    1998年に独立し、同年、ウェブデザイン専門のメールメディア DesignWedgeの発行を開始。Webデザイン業の傍ら、海外のWebデザインに関する情報発信を行う。
    雑誌への寄稿多数。主な著書に『はじめてのフロントエンド開発』『プロセスオブウェブデザイン』、『Play framework徹底入門』、『ウェブデザインコーディネートカタログ』など。自社製のWebデザインのクロール&キャプチャシステムvaqumをベースに、様々なリサーチを行っている。Web 検定プロジェクトメンバー

    著作一覧はこちら